ただ、愛してる。
「それじゃ」

「じゃーね!」

「またな!」


それから2時間、飲みまくった私たちは解散して、私は帰り道が同じ多恵子と駅へと歩き出した。

夜の風は気持ちいい。
昼間は真夏だから凄く暑いしなー。


「……佐奈、」

「はい」

「あんた嘘ついたでしょ」


ギクッと目を泳がせて、返事に困る私。

やっぱり多恵子にはお見通しか。
だってあの時、多恵子は黙ったままだったもんな。


「何のことでしょう」


でも、悪あがきしてみる。


「分かってるくせに。中津さんのことだよ。本当は、叱られたんじゃないんでしょ?」

「………多恵子には誤魔化しが効かないね」

「だって今日、午後からずっと変じゃん。私と夏樹が中津さんの悪口言ってても、上の空っていうか、1人だけ違う世界に飛んでるし」

「…………」

「…中津さんのこと、好きなの?」


好き。

そう簡単に言えたら、どれだけ楽だろう。

それでも私は、何も言えなかった。

だってただの平社員が、次期社長候補に恋なんて誰が叶うと思うだろう。


私と中津さんは、世界が違う。

背負っているものも、責任も。
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