ただ、愛してる。
「おはよう、佐奈!」

「おはよう、多恵子」

「あれ、指輪外したの?」

「あー、うん。別れたから」


自分のデスクに鞄を置いて、椅子に腰かけると、隣に座っている同僚の多恵子が私の方へと身を乗り出してきた。


「え、何で!?まだ3ヶ月じゃん」

「ちょっと束縛がねぇ…」


今まで出会ってきた男は、ギャンブル、浮気、束縛と、ろくでもない奴ばかりで。

私は本当に男運がないように思う。


「…ねぇ、佐奈。よくも知らない男と付き合うのもうやめた方がいいよ。何かあったらどうするの」

「もうあったんだけどね」

「え?」

「実は、」


昨日ね、と話そうとした時、パンパンと手を叩く音と共に大きな声が聞こえてきた。

あれは課長だ。

みんな席を立つ中、私と多恵子も慌てて席を立つ。


「はいはい、注目!今日は紹介したい人が居るから静かに」

「そう言えば今日、営業部から1人異動してくるらしいよ」



課長の後にコソッと多恵子が私に耳打ちをする。

へぇ、異動か…

でも今って7月なのに、こんな時期にその人も大変だな。


「では、こっちへ」


課長に促されて扉の向こうから来たのは…


「中津 健です」


スラッと背が高くて、スーツがとても似合う男の人だった。
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