ひるなかの一等星
「スマホ持ったか?財布は?家の鍵締め忘れんなよ」
「はいはい」
彼の名は七橋大駕(ななはし・たいが)。小学校の頃からの幼なじみだ。
「お前ちゃんと朝メシ食った?」
「うん」
「どうせまたパンひと切れとかだろー??しっかり食わねぇと死ぬぞ!」
「うん」
「つーか今日の3限小テストあるよな。勉強した?」
「うん」
「今回のテスト落ちたら休日に補習なんだろ??絶対落ちたくねぇ!」
「うん」
耳元でうるさく喚かれるのにも、もう慣れた。
大駕は昔からいつも元気でお喋りだ。こっちの関心の有無に関わらず延々と話し続ける。
まぁ、私は話をするのが苦手だから逆に良いんだけど。
「あっ、そーいやさ」
「ん?」
突然声のトーンをひとつ上げた大駕に私は顔を上げて首を傾げる。
「なに??」
「あー、えっと、噂なんだけど······俺達のクラスに転入生来るらしいぜ?」
「えっ、こんな時期に?」
「そう」
なぜか目を逸らしながら頷く大駕に、でもそれもいつものことだと思って私は上げた顔を元に戻した。学校の近くで大駕と視線は合わせたくない。
それより、こんな時期に転入生ってどういうことだろう。
高校2年の6月なんて、転入するにはすごく中途半端だ。
「超美人の女子っていう線が濃厚なんだよな〜、仲良くなれるといいな! 」
「へぇ······私は別にいいかな」
美人な子が来るなら、その子はきっと目立つに違いない。うっかり仲良くなって、私まで一時でも目立つなんて事になるのはごめんだ。
そんなのはもうこりごりだ。
「お前いっつもそうだよな。友だち増やして〜って思わねーの??」
「別に······大駕がいるし、いいよ」
友だちなんて、1人いれば十分だ。
ましてや大駕だけで5人分くらいの賑やかさだ。大駕だけでいい。
「お前な······」
「ん?」
と、急に静かになった大駕を目線だけで振り向くと、彼は困ったような顔で口をへの字に曲げていた。
「なに······?」
「······いや、なんでもねぇ。お前ってそういうやつだよな」
「どういうこと??」
「なんでもねぇって」
大駕はため息をついて私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ちょっと······」
「うわ、髪ボッサボサ。もう学校着くぞ?」
「大駕がやったんでしょ」
校門はもう目と鼻の先だ。
私は立ち止まって、二つ結びにしていた髪を解いた。
「じゃー先行ってる」
「うん」
私が髪を結び直す間に、大駕が人ごみにまぎれて校門をくぐる。
ちらりと振り向いた大駕が、少し心配そうな顔をしているのがわかった。
(大丈夫だよ)
私は目を逸らすことで返事に変えて、また歩き出した。
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