ひるなかの一等星
教室に戻ると、冷たい視線は変わらず私に突き刺さった。構わず席につき、また本を開いて、ホームルームが始まるのを待つ。
ひそひそ、ひそひそというクラスメイトたちの潜めた声が聞こえる。何があったのだろう。まあ、私の知ったことではないけれど。
ただ気になるのは、彼らの視線が揃って私に向けられているような気がすること。
(······被害妄想だ)
私は小さく深呼吸して、再び本に向き直った。私なんかを皆が注目するわけがない。そう感じるのは私の自意識過剰だ。
「······」
ページをめくり始めると、誰かが私に近寄ってくる気配がした。誰だろう。また派手グループの誰かか。また私を貶めに来たのか。
「ねぇ」
聞こえた声は想像と違う、聞いたことのないトーンの、低い声だった。
低いと言ってもあくまで女の子の声だったらの場合で、どちらかというとこの声は声の高い男の子のような━━━······
「ねぇ。キミ、雲居真希ちゃん?」
「······え?」
覚えのない声に名を呼ばれて、反応が一瞬遅れる。
振り向くと、メガネをかけた男子が立っていた。
伸ばしているのか伸びているのか、おそらく後者に見える茶髪は無造作に首の後ろで束ねられ、脆弱にも思えるほど細い身体は普通のサイズの制服の中で泳いでいるように見える。
この人を、私は知らない。
「えっと······」
「はじめまして。オレ、今日から転入してきたんだ。よろしくね?」
「······」
意味がわからない。今日転入してきた人が、どうして私の名前を知ってるんだろう。
「うん、やっぱり似てるな」
「! え、」
呟いたのが聞こえて聞き返そうとした時、ガラガラと引き戸を開けて、先生が教室に入ってきた。
「ホームルーム始めますよー。今日は転入生を紹介します。みんなはもう仲を深めたのかな」
女性の担任教師が謎の男子生徒を手招きする。ぱたぱたと駆けていった彼は教卓の隣に立つと、クラスメイトたちに向き直って美しく頭を下げた。
「今日から転入してきました。日吉宙(ひよし・そら)です。どうぞよろしく」
にこっと笑った顔には、やはり少しの見覚えもなかった。
< 6 / 12 >

この作品をシェア

pagetop