ひるなかの一等星
そういうわけで、私は放課後、日吉くんを連れて学校を出た。
不可思議なのは、隣にいるのが日吉くんだけではなく······
「クラス委員さんも一緒に行くの?」
「おー。転入生がどんな奴か知っておきたいからな」
······心なしか、いつもよりテンションの低い大駕もいる。
「なんで来たの······」
「学校出るまではちゃんと別行動したろ」
「そういう問題じゃないよ。誰かに見られたら······」
面倒くさいことになる。
と言いかけて、やめた。
「見られたら何だよ?」
「······別に。転入生、美少女じゃなくて残念だったね」
「······まあな」
大駕には言ってない。言えない。
『 』
「ッ」
「? 真希ちゃん、どうした?」
「何でもない······つまずきそうになった」
「危なっかしいなー。つかまる?」
「いいです」
差し出された手を避けて先へ歩く。
「あ、ちょ、待って待って!」
早足になった私を慌てたようにうしろから追いかけてくる二人の足音。
(どうして私なの)
何度も思った。街の案内なんて私じゃなくていい。私なんかより仲良くなっておくべき人はクラスに沢山いる。私は一番最後だ。仲良くなってもいい事なんてない。
大駕がいるなら、彼に任せて帰ってしまおうか。
「━━━っおい、真希!!」
「!!」
━━━パッパァァァアアア······
······。
肩を引っ張られてうしろへ倒れかけた私は、大駕の腕の中に収まって、車との衝突を回避していた。
赤信号に侵入しようとしていたらしい。
「ったく······危ねぇだろうが!!ちゃんと前見て歩け!」
「ご、ごめん」
大駕が怒鳴った。
本気で怒ってる証拠だ。
「大丈夫?」
「う、うん」
後から来た日吉くんが私の身体を上から下まで見て尋ねる。心配してくれているらしい。
大駕はというと、一瞬だけ私の肩を強く握ったと思うと、すぐに腕の中から開放した。
「大駕······あの······」
「······」
気まずい沈黙が流れる。
(なんで)
こんな時に、私は大駕に苛立ちを覚えていた。
(どうなったって別にいいじゃん。代わりなんていくらでもいるじゃん。危なかったからって、そんなに怒ることないじゃん)
どうせ私なんだから。
大駕や日吉くんじゃなくてよかったと思うと心底ほっとする。けど、それ以前に2人はこんな私みたいにぼーっと歩いたりしないだろう。
(······大駕とは、幼なじみだ)
私が、いろいろあったから、優しい大駕は心配してくれるんだろう。
「······ごめんなさい」
無用な心配をさせてしまった。
私は一度膨らんだ気持ちをそっと深呼吸することで落ち着けて、大駕の顔色をうかがった。
「······」
大駕は困ったような顔で私を見つめていた。そして深くため息をついてから、
「もう、いいよ」
そう言って苦笑した。
「お前、いっつもぼーっとしてるからな。俺が見といてやらねーと」
「そんなことないよ」
「あるんだよ」
いつもの軽いやりとりが続く。
(よかった。機嫌、直してくれた)
私はほっとして鞄を肩にかけ直した。
「2人、仲いいんだ?」
日吉くんが驚いたような顔をして訊く。
「学校じゃ名字で呼んでたよね?」
「あ······」
(しまった)
私は自分の失態を心から後悔した。
「ええと、それは······」
学校では、私たちは極力関わらないようにしている。なぜってそれは、私が困るから。
「······幼なじみなんだよ」
返答に困って黙り込んだ私の代わりに、大駕が口を開く。
「幼なじみなんだ、俺たち」
「そうなの?」
「······」
大駕が、どこか責めるような、けれど悲しむような瞳に私を映す。
私はそれから目を逸らして、日吉くんの方を向いた。
「男女の幼なじみなんて冷やかしの種になるでしょ」
「あぁ、それで学校では関係ないフリ?」
「そう」
私は頷いて、日吉くんを納得させた。
「なるほどねぇ。みんな結構子供っぽいんだ」
「子供っぽい?」
「うん」
日吉くんは頷いて笑った。
「男女の幼なじみなんていくらでもいるでしょ。異性だからってそういう風に考えるの、子供っぽくない?」
「······確かにね」
でも彼女たちがいる限り、それはどうにもならない。そういう話が大好きな子たちだから。
そして私が私である限り、私は自由ではいられない。
「まぁでも、わかったよ。じゃあ教室では2人が幼なじみで仲良しってことは言わないようにするね!」
「······ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ早く行こ!」
日吉くんが青になった信号を指差して道もわからないのに前を行く。
その足が進行方向とは反対に向いて、私と大駕は慌てて彼を引き止めた。
不可思議なのは、隣にいるのが日吉くんだけではなく······
「クラス委員さんも一緒に行くの?」
「おー。転入生がどんな奴か知っておきたいからな」
······心なしか、いつもよりテンションの低い大駕もいる。
「なんで来たの······」
「学校出るまではちゃんと別行動したろ」
「そういう問題じゃないよ。誰かに見られたら······」
面倒くさいことになる。
と言いかけて、やめた。
「見られたら何だよ?」
「······別に。転入生、美少女じゃなくて残念だったね」
「······まあな」
大駕には言ってない。言えない。
『 』
「ッ」
「? 真希ちゃん、どうした?」
「何でもない······つまずきそうになった」
「危なっかしいなー。つかまる?」
「いいです」
差し出された手を避けて先へ歩く。
「あ、ちょ、待って待って!」
早足になった私を慌てたようにうしろから追いかけてくる二人の足音。
(どうして私なの)
何度も思った。街の案内なんて私じゃなくていい。私なんかより仲良くなっておくべき人はクラスに沢山いる。私は一番最後だ。仲良くなってもいい事なんてない。
大駕がいるなら、彼に任せて帰ってしまおうか。
「━━━っおい、真希!!」
「!!」
━━━パッパァァァアアア······
······。
肩を引っ張られてうしろへ倒れかけた私は、大駕の腕の中に収まって、車との衝突を回避していた。
赤信号に侵入しようとしていたらしい。
「ったく······危ねぇだろうが!!ちゃんと前見て歩け!」
「ご、ごめん」
大駕が怒鳴った。
本気で怒ってる証拠だ。
「大丈夫?」
「う、うん」
後から来た日吉くんが私の身体を上から下まで見て尋ねる。心配してくれているらしい。
大駕はというと、一瞬だけ私の肩を強く握ったと思うと、すぐに腕の中から開放した。
「大駕······あの······」
「······」
気まずい沈黙が流れる。
(なんで)
こんな時に、私は大駕に苛立ちを覚えていた。
(どうなったって別にいいじゃん。代わりなんていくらでもいるじゃん。危なかったからって、そんなに怒ることないじゃん)
どうせ私なんだから。
大駕や日吉くんじゃなくてよかったと思うと心底ほっとする。けど、それ以前に2人はこんな私みたいにぼーっと歩いたりしないだろう。
(······大駕とは、幼なじみだ)
私が、いろいろあったから、優しい大駕は心配してくれるんだろう。
「······ごめんなさい」
無用な心配をさせてしまった。
私は一度膨らんだ気持ちをそっと深呼吸することで落ち着けて、大駕の顔色をうかがった。
「······」
大駕は困ったような顔で私を見つめていた。そして深くため息をついてから、
「もう、いいよ」
そう言って苦笑した。
「お前、いっつもぼーっとしてるからな。俺が見といてやらねーと」
「そんなことないよ」
「あるんだよ」
いつもの軽いやりとりが続く。
(よかった。機嫌、直してくれた)
私はほっとして鞄を肩にかけ直した。
「2人、仲いいんだ?」
日吉くんが驚いたような顔をして訊く。
「学校じゃ名字で呼んでたよね?」
「あ······」
(しまった)
私は自分の失態を心から後悔した。
「ええと、それは······」
学校では、私たちは極力関わらないようにしている。なぜってそれは、私が困るから。
「······幼なじみなんだよ」
返答に困って黙り込んだ私の代わりに、大駕が口を開く。
「幼なじみなんだ、俺たち」
「そうなの?」
「······」
大駕が、どこか責めるような、けれど悲しむような瞳に私を映す。
私はそれから目を逸らして、日吉くんの方を向いた。
「男女の幼なじみなんて冷やかしの種になるでしょ」
「あぁ、それで学校では関係ないフリ?」
「そう」
私は頷いて、日吉くんを納得させた。
「なるほどねぇ。みんな結構子供っぽいんだ」
「子供っぽい?」
「うん」
日吉くんは頷いて笑った。
「男女の幼なじみなんていくらでもいるでしょ。異性だからってそういう風に考えるの、子供っぽくない?」
「······確かにね」
でも彼女たちがいる限り、それはどうにもならない。そういう話が大好きな子たちだから。
そして私が私である限り、私は自由ではいられない。
「まぁでも、わかったよ。じゃあ教室では2人が幼なじみで仲良しってことは言わないようにするね!」
「······ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ早く行こ!」
日吉くんが青になった信号を指差して道もわからないのに前を行く。
その足が進行方向とは反対に向いて、私と大駕は慌てて彼を引き止めた。