堕天使と呼ばれる女
交錯
…翌朝…
場所は変わって、ここは例の大病院。
聖羅は綾瀬総合病院へ来ていた。
「ここに来るのは、何年ぶりだろう…」
この場所は、病院敷地内にある庭の一部。
ちょうど病棟から隠れるように周囲を木に覆われていて、ほとんど人に知られていない。
聖羅が綾瀬総合病院で軟禁状態だった頃から、何も変わらないこの場所は、この病院で唯一、聖羅がホッと出来る場所だった。
夏の蒸し暑い風に吹かれて、聖羅は物思いにふける。
脳裏をよぎるのは、幼い頃の記憶…
………………………
バシッ!バシッ!何かを叩く音が響く。
「あんたなんて、私の子どもじゃないのよ!!
この化け物!!
近寄らないで!!」
ひたすら泣きじゃくる聖羅を、全力で打つ母親…
聖羅は既に全身、血と痣だらけで…
………………………
「やめた!やめた!!」
聖羅は頭をぶんぶんと振って、暗い記憶を今の自分から遠ざけた。
「やっぱり、ここへ来ると、嫌な事を思い出すよなぁ…」
そうボヤく聖羅の髪を、夏の湿っぽい風がさらっていく。
カサッ。
えっ!?
「あっ。
ここを知ってる人って、私以外にもいたんですね。」