堕天使と呼ばれる女
さくらと親しくなるのに、さほどの時間はかからなかった。
今、思ってみれば、彼女自身に、病院関係者からの強い圧力がかかっていたのかもしれない…
でも、当時の直行は、そんなことに気付きさえしなかった。
デートというデートは、全く無かった。
彼女が、時折、お弁当を持って研究室を訪ねて来てくれるくらい…
それさえも仕組まれた事で、さくら自身には選択肢すら与えられていなかったのかもしれない。
気付くタイミングは、いくらでもあったんだ。
でも、気付かなかった。
「さくら、オレは君の事も家族の事もほとんど知らない…
そろそろ、聞いてもいいかな?」
ずっと聞かないでいた事だった。
教えてもらったのは、好きな食べ物や、苦手なもの…
世間話しか、していなかったわけだ。
直行は、彼女の暗い瞳の理由を、ずっと聞かないでいた。
いつか教えてもらえるのでは無いかという、淡い期待と共に…
その期待が消えかけた頃、ついに直行は、ふたりの関係を一歩前進させる為にも、敢えて聞いてみる事にしたのだ。
案の定、さくらの表情は一瞬にして曇った。
そして、開かれた口から発せられた言葉は、思いもよらぬものだった。