堕天使と呼ばれる女
堕天使
…ラッシュ時…
地下鉄の駅のホーム…
聖羅は、ホームの一番端にあるベンチに座っていた。
そして、聖羅の目線の先には、たくさんの人混みに紛れて、白線の上に立っている、くたびれたサラリーマンのおじさんが1人…
その様子は、明らかに自殺を試みようとしていた。
思い悩んだ末、ようやく決心がついたらしく、おじさんは背筋をピシッと伸ばして、今まさにホームに入ってこようとする電車へと、目を向けた。
「…白線の内側までお下がりください…」
ホームにアナウンスが響き渡ったその時、おじさんはタイミングを見計らって、足を大きく前へ一歩踏み出した。
その瞬間、聖羅はおじさんの襟首を後ろへ引っ張った。
「物理的に」ではなく、「意識」で…。
おじさんは、急に後ろへ引っ張られた反動で、持っていたノートパソコンを線路内に落としたが、おじさん自身は線路内に落ちること無く、ホームに尻餅をついた。
周囲は、何が起こったか分からず、騒然としていた…
聖羅は、自殺未遂のおじさんに静かに近寄り、声をかけた。
ちょうど、駅員も騒ぎを聞きつけて近付いてきたところだった。
駅員にも聞こえるように、聖羅は喋る。
「大丈夫ですか?
立ちくらみでしょうか…
落ちたのがノートパソコンだけで良かったですね。」
その後の事は、もう駅員に任せて聖羅は身を引く。
そして、直後に来た電車に乗り込んで、聖羅は現場を去った。