堕天使と呼ばれる女
「やっぱり、数々のハンターを返り討ちにしてきただけあって、“堕天使”様は手強いなぁ…」
そう男がつぶやいた頃、聖羅は既にその公園から遠く離れた街中の路地にいた…
「はぁ…はぁ…
ちょっと焦ってテレポートし過ぎたかも…」
そう言いながら、壁に手をつき、肩を上下に大きく揺らす。
別に、手強い相手でも無かったのに、神経がピリピリする…
「はぁ…今までのハンターは大したこと無かったけど…あいつはちょっと…今までとは違った意味で、要注意かも…」
聖羅は、直感的に嫌な印象を抱いていた…
あの男の能力は、恐らく組織の中でも珍しい部類に入るはず。
聖羅が今まで戦ってきた事が無いタイプだ。
戦闘経験が無いだけでなく、聖羅には特殊系能力の知識もあまり無かった。
上がった息が落ち着いてから、路地を離れて歩き出す。
『それにしてもあの男、珍しい能力者なのに、よくハンターなんてやっていられるわよね…
普通だったら、実験漬けにされてるはず…
あのハンターらしからぬ物言いといい、ヤツにも裏があるって事かな?』
そんな事を考えながら、自分の住まいへと足を向ける。
聖羅は家具付き1ルームで生活していた。
どうやって借りたか…
それはもちろん、催眠術!
身寄りも無く、戸籍すら無い社会から抹殺された人間が、一般社会に紛れて生きていくには、どうしても多少の小細工が必要になる。
それでも、聖羅はこの能力をあくまでも自分の生活するテリトリーを確保するだけに使っていた。
悪用するやつは山のようにいるけれど、聖羅にそのつもりは全く無かった。
聖羅には、それだけ周囲に対する執着も無ければ、それと同時に自分への執着も無かったからだと言えるだろう。
ただ、積極的に「死」を選択する強い気持ちも無ければ、一生懸命に「生」を望む気力も聖羅は持ち合わせていなかったのだ。
特に、目的も無く生きる毎日…それなのに、常に命の危険が付き纏う日々…
聖羅は、そんな風に過ごしていた。
時々、気紛れで能力を使うけれど、それはあくまでも聖羅の気分…。そこに特別な理由などは存在しないのだ。