彼女と傘と紫陽花と
あくる年も彼女はやってきた。その季節も雨の六月だった。
彼女の傘はとても綺麗なパステルピンクで、大切そうに抱かれていたのはやはり紫陽花の花束だった。今年の紫陽花も、薄紫と青だった。
僕はスニーカーが汚れるのを気にしながら、少し先を行く彼女の方へと足を進めた。
紫陽花の花を、いや彼女の表情をよく見てみようと思ったんだ。
彼女の表情を隠すように、パステルピンクの傘が僕の視線の先を遮っている。
まるでその柔らかなピンクと同じで、恥ずかしさに頬を染めているのを知られたくないというように、彼女の表情は傘に隠れてよく見ることができなかった。
僕はあの凜とした瞳をまた見てみたくて気が急っていた。
彼女の歩調よりも少しだけ早足で歩いたおかげで、去年と同じ過ちをおかしてしまった。
パシャりと水溜まりに踏み込んでしまった僕のスニーカーは、今年もまんまと泥だらけでびしょ濡れだ。隠れている彼女の表情に気を取られすぎたんだ。
深いため息を汚れてしまったスニーカーに向かってこぼしているうちに、やはり彼女はいつの間にか僕の前から消えていた。
ピンクの傘から時折覗き見えていた肩先に揺れる長い髪の毛が、梅雨の湿気を吸っているのか少し重そうだった。