渡せなかったラブレター
「よぅ!」

昔なら
そう
たやすく声を
かけられたのにな

今は
ここからこうして
背中を見ているだけでも
涙が出そうになるよ


とぼとぼと
章弘の後ろを
歩いた

声をかければ気づくけど
手は届かないくらいの
距離


ちょうど
あたしの気持ちも
そんな感じだった

気づいて欲しいけど
気づいて欲しくないような

話したいけど
話せないような

お互いが
その存在に
気づいてしまえば
なんてことなく
笑って話せるのに


心なんて
複雑すぎて
あたしには
手に負えない


そうして
頭の中が
いろんなことで
埋め尽くされた頃

だらしなく
踏み出していた右足が
道に転がっていた
小さな石を
見事に蹴った

そして
おもしろいほど真っ直ぐ
章弘へ向かい
彼の右足のかかとに
当たって止まった




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