夏の思い出彼は今?
目と目が離れてエラが張っていた。
中学二年の夏休みの終わりに堤防に座って話してるとやつはとても悲しげに嘆いた。
やつは日焼けで剥けた皮を取りながら永遠に泳げたらいいのになあと涙ぐんで俺に話した。
有る意味狂っていたと言っても良い。
段々やつの気持ちが昂ったのか嗚咽を漏らしながら皮を剥いていた。
背中や手足から顔まで焼け過ぎて皮は剥いても剥いてもきりがなかった。
やつの変化に最初に気付いた時に俺は暑さで頭がどうかしたのかと思った。
顔の皮を剥いていると中からやつに似た魚のような顔が表れ始めたのだ。
背中には良く見ると鱗のような物が浮かんで来てるように見えた。
やつは俺に向かって願いは叶うんだなと言うと堤防に立ち上がった。
やつは俺に元気でなと言うと堤防から思いきりジャンプして海に飛び込んだ。
その時やつの身体の残りの皮が、すっぽり取れて海に浮かんだ。
やつは魚になったのだ。
その後知らない連中は、やつは自殺したとか半魚人になったとか言ったが俺はやつは魚になって今でも泳いでるのだろうと思う。
奇妙な夏の思い出だが、やつが幸せなら良いではないかと思う。
子供の頃の願いなんてとても叶えられなった俺は、やつに良かったなと今年の夏も暑さの中で海を見ながら思うのだ。
堤防に大きな鱗が落ちていた。
俺はそれを拾うと太陽に翳しながらやつのではないよなと笑う。
おわり