透き通る終焉
透き通る終焉





一緒に死のう、と言い出したのは君で、それなら海にしよう、と言ったのは僕だった。数週間前まで鼓膜を破るほど喧しく泣き喚いていた蝉たちは、気づいた頃にはみんな僕らの足元に転がっていた。

深夜、こっそり家を抜け出して、音を立てないようにそっと自転車のキーチェーンを外した。待ち合わせた公園へ向かう途中、思い切り踏んだペダルが、ぎぎ、と短く錆びた声をあげて、なんだかそれがどこか遠い知らない世界の扉を開けた音のように感じた。

お待たせ、と笑ったら、うん、と君も小さく笑った。


「夏の終わりの海で心中なんてさ、なんか」


ロマンチックだよね、と君は言った。自転車の後ろに乗って、僕の背中に体を預けたまま、くすくすと笑う君の体温があたたかかった。ゆるい坂道を流れるように降りながら、お気に入りの曲を口ずさんで、海を目指した。

静かな街を走っていると、なんだかこのまま背中に羽が生えて、どこまでだって行けるような気になった。月並みだけれど、世界中に僕たち二人だけしかいないような、そんな気分になって、なんだかそれがとても恐ろしかった。


「真っ暗だね」

「足元気をつけて、ほらそこ」


これから死のうというときに、躓かないように気をつけて、なんてなんだか滑稽で、不意に大声で笑い出したくなった。君の手を引いて浜辺を歩きながら、真っ黒な地平線を見つめていた。

世界の終わりは、こんなにも穏やかにやってくるものなのかと、そう思った。


「書いた?」

「何を?」

「遺書」


聞き慣れない二文字が、頭の中に浮かんで泡になった。小さく頷くと、何て書いたの?と君は楽しそうに僕の手を握り直した。


「秘密」

「ケチ」


そうして僕らは手を繋いだまま、真っ白な浜辺を一歩ずつ、海底を目指して歩いた。海の色は何色だっただろうか。掬えば水は透明だけれど、僕はやっぱり海の色は青だと思うんだ。水色でもない、紺でもない、海というものはどこまでも青くて、それ以上でも以下でもない。


「水、冷たいね」


楽しそうに笑う君の目から、ぽとりとひとつ、雫が落ちた。その目には、この海は何色に映っているだろう。
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