透き通る終焉
あぁ、終わりなんだなぁと思った。
地球は丸くて、空には終わりがないらしい。海はどこまでも広くて、それでも遠い遠い水平線の彼方には、きっと小さな島があって、僕らはいつかきっとそこにたどり着くだろう。
終わりをみたことはないけれど、きっと終わりはあるのだろう。この水はきっと透明なのだろう。
僕らは青になれない、ただそれだけのことなのだ。
「何て書いたか、知りたい?」
「え?」
「遺書、何て書いたか教えてあげる」
抱き寄せた身体はとても細く、冷たかった。顎の下で、水面が揺れて、ちゃぷん、と跳ねた。
「海を見に行ってくるから、朝には帰るって書いたんだ。テーブルの上に置いてきた。まだ見られてないと思う」
帰ろ、と呟いた声は震えていた。
「大丈夫、もう帰ろ」
もう一度呟いて、冷たい肩をぎゅっと抱きしめた。
きっとお互いに、どちらかがそう言うことをわかっていた。その言葉を待ち侘びていた。それがこんなにも悲しくて幸せなことだということを、僕らは最初から知っていた。
「風邪、引いちゃうね」
君が笑って、僕も笑った。抱きしめあって、手を繋いで、僕らは歪な青を脱ぎ捨てた。
世界の終わりが、また朝を連れてくる音がした。
【透き通る終焉】
(賢さはいつも僕らを救わない)