君にいざよう
それから数分……雨はまだ止まない。
けれど、濃紺の空に浮かぶ重たい雲はさっきよりも薄くなりつつある。
隣に立つ朔間君をちらりと見ると、彼は鼻歌を歌いながら少しだけ勢いを欠いた雨の景色を眺めていた。
冷たい風に揺れる髪は、テレビや雑誌でよく見るショートウルフスタイルのアップバングヘア。
アッシュの入った柔らかい明るめの髪色と、少し日に焼けたような健康的な肌の色。
そして、どちらかといえば可愛らしい顔立ちに、そういえば彼はモテる方なんだと思い出した刹那、見られている事に気づいたのか、朔間君は八重歯を見せて笑顔になる。
「どした?」
「……なんでもない、けど……朔間君て、いつも笑ってる気がする。楽しい?」
「へ?」
「今笑ってたでしょう?」
私の質問に彼はニコニコしたまま答える。
「それなりに楽しいよ、望山ちゃんとの雨宿り。望山ちゃんは? 楽しくない?」
白い息を吐きながら聞き返されて、私は「普通、かな」と文庫本を静かに閉じた。