ウソのコイビトになりました



『実はね、陽斗くんのお父さんが倒れたの』


「え…」


『陽斗くんのお兄さんにそれだけ聞いたんだけど、もしお父さんに何かがあったら、すれ違ったままになっちゃう』



ドクンと胸が嫌な音を立てた。



『だから、あの時見せられなかったビデオレターを見せたいの。すれ違ったままさよならにさせたくない』


「…………」


『お願い、朱里ちゃん…』



優夢の言いたいことは分かるよ。
だけど、私だって時間がない。



もし、明日陽斗くんを行かせたら日曜日のデートだって無しになっちゃうかもしれない。



そしたら、もう思い出だって作れなくなっちゃう。



私が何も答えないでいると『優夢、手伝って』という優夢のお母さんの声が聞こえた。



『…ごめん。お母さんに呼ばれたから行かなきゃ。
明日の10時に駅前で待ってるとだけ伝えて』



そう言うと『おやすみ』と電話を切られてしまった。




< 297 / 418 >

この作品をシェア

pagetop