ウソのコイビトになりました
『実はね、陽斗くんのお父さんが倒れたの』
「え…」
『陽斗くんのお兄さんにそれだけ聞いたんだけど、もしお父さんに何かがあったら、すれ違ったままになっちゃう』
ドクンと胸が嫌な音を立てた。
『だから、あの時見せられなかったビデオレターを見せたいの。すれ違ったままさよならにさせたくない』
「…………」
『お願い、朱里ちゃん…』
優夢の言いたいことは分かるよ。
だけど、私だって時間がない。
もし、明日陽斗くんを行かせたら日曜日のデートだって無しになっちゃうかもしれない。
そしたら、もう思い出だって作れなくなっちゃう。
私が何も答えないでいると『優夢、手伝って』という優夢のお母さんの声が聞こえた。
『…ごめん。お母さんに呼ばれたから行かなきゃ。
明日の10時に駅前で待ってるとだけ伝えて』
そう言うと『おやすみ』と電話を切られてしまった。