空を祈る紙ヒコーキ
「面倒見いいよね、空は。生徒会長で軽音楽部の部長。肩書きたくさんだし当然か」
学校にいると知らない空を見る。だから時々同じ家に住んでいることを忘れそうになる。
「そんな立派じゃないよ、俺なんて」
まただ。忘れた頃に見せる切ない瞳。空の影の部分。さっきまで部室で盛り上がっていたのと同じ人とは思えない。それくらい差があった。
戸惑うと同時に、そんな空に意地悪な気持ちが湧いてきた。
「そのわりに空って自惚れ強いよね」
静かな夜道で私の声は思ったより大きく響く。
「俺のこと好きになるなーとかさ。言ったじゃん、引っ越し初日から私に。ビックリしたって」
あの時はうまく言えず強い態度でごまかしたけど今なら分かる。空にああ言われて私は傷ついた。正直今も一方的にああ言われたことに納得がいっていない。
だいぶ打ち解けた今なら冗談のノリであの時のことを軽くさりげなく訊けると思った。思った通り、空は私と同じく明るい声音で普通に答えた。
「涼には俺が自惚れ屋に見えたんだな」
「それはマイルドな言い方しただけ。ストレートに言わせてもらうと自意識過剰って思った」
顔も中身も完璧な男なんて皆そんなものかもしれないけど、と言いかけやめておいた。今後同じバンドでやっていくのにさすがにそれは言い過ぎかもしれない。
「そっか。そうだな。自意識過剰な発言してるな、俺。痛いなー」
自分のことなのに他人のことを話すノリで空はクスクス笑った。どこまで本気か分からない。