空を祈る紙ヒコーキ
言い返したくて止まらなかった。二ヶ月という短い間だったけど、バンド仲間として軽音楽部で楽しくやってきた相手だからなおさらだ。
自分のことを好きになるなと言っておいて私が恋愛していそうだと思ったら意地悪なことを言う。そんなのひどい。
「最悪。優しいと思ってたのに、空もそこらへんのヤツと変わらないね。信じた私が馬鹿みたいだ」
空を睨みつけ、ずっとそうしていたいのに涙が出てくる。
別に付き合えなくていい。彼女になりたいなんて思ったこともない。ただ好きでいるだけで良かった。それなのにどうしてこんな険悪な空気になるんだろう?
悲しくて、とめどなく涙が溢れた。手の甲で何度拭ってみても止まらない。
今まで嫌なことはたくさんあったけど人前では泣かないようにしてきた。アミルに意地悪されても、学校のクラスメイトに嫌がらせをされても、父の借金のことで近所の人から白い目で見られても。過去に体験してきたことと比べたらこんな出来事はささいなことのはずだ。それなのに今まであったどんなことよりもショックなことに感じる。
「出てってよ。もうしばらく空の顔見たくない」
涙まじりに訴えると、空は傷ついたような顔をした。空の言ったことに比べたら私の返したセリフなんて小さいのにどうしてそんな顔をする?
「そっちが悪いのにそういう顔するのズルい!」
「……ごめん。傷つけるつもりじゃなかった」
「え……?」
何が起こったのか一瞬分からなかった。
空がおもむろに私を抱きしめた。強くも優しい抱きしめ方。こんなに大切そうに抱き寄せられたのは初めてだった。
いつも空に対して感じていた安らぎやドキドキをはるかに超えて心臓が壊れそうになった。耳には空のものか私のものか分からない心音が早いリズムで重く深く響いている。
変わりゆくリズム(終)