空を祈る紙ヒコーキ
「中学入学と同時に、宝来君は親御さんの仕事の都合で遠くへ引っ越していった。それを機に家族間の交流は年賀状や電話だけになってしまったけど、空と宝来君はスマホやSNSで連絡を取り合ったり長期休暇中はお互いの家を行き来していた。宝来君は明るく優しいいい子でね。空には母親のいないことでだいぶ寂しい思いをさせてしまったけど、宝来君といることで空はだんだん元気になっていった。
でも、二人の関係は思わぬ形で壊れてしまった……。空は宝来君の変化に気付くことができなかったんだ。いや、正確に言えばささいな違和感は感じていた。でも、宝来君の事情に踏み込むことをためらってしまったんだ」
引っ越し先の中学で宝来君はイジメにあっていた。キッカケは部活内での軽い嫌がらせだった。宝来君は背が低いことでからかわれていた。無視していればそのうち収まると思っていたが、他校との練習試合でミスをして先輩に迷惑をかけてしまって以来、状況はひどく悪化した。部活内だけだった悪口はそのうちクラス中で囁かれるようになり、そのうちクラスの友達すら離れていき宝来君は学校内のどこにいても孤立するようになった。
イジメが分かったのは宝来君が死んだ後だった。それを教えてくれたのは空のツイッターに届いたひとつのメッセージ。
《兄ちゃんはイジメにあってた。なのにどうして見放したの!? 友達じゃなかったの? お前は兄ちゃん以上に不幸にならなきゃいけない。一生な。》
それは宝来君の弟、歩(あゆむ)君からのものだった。
宝来君と歩君は年子の兄弟で二人はとても仲が良かった。宝来君が中二の時、歩君も同じ中学に入学した。歩君はたまたま兄のイジメ現場を目撃したのでイジメをしている人にやめるよう直接抗議したが、新入生の言うことだからと軽く見られまともに取り合ってもらえなかった。イジメがなくなるどころか、歩君がイジメの主犯達を注意したことで校内での宝来君への風当たりはますます厳しいものになった。
以来、歩君は兄を助けたくても助けられなくなってしまった。教師や親には言わないでほしいと宝来君に頼まれてしまい打つ手がなくなった歩君にとって、遠く離れた土地にいる親友の空だけが唯一の頼りだった。