空を祈る紙ヒコーキ

 大丈夫。きっと届く。

 すでにいい具合に調整したマイクの高さを再び直すことで、私は全身を打ち付ける心臓の音を和らげようとした。

 このライブは大切な人に向けたものというだけでなく、全国に向けテレビ放送される。放送テーマは『今を生きる若者』。

 空とプールで分かり合えた日の翌日、テレビ局から学校に問い合わせの電話が来た。報道関係者が動画サイトにアップされた私達の曲を見つけたらしく、私達の生演奏をテレビで紹介したいとお願いしてきた。その話がまとまり、今日この場にはテレビ局の人達がステージの周りに点在している。

 主に宝来君に向けた曲を演奏するのでテレビ出演は自粛したい。私達は最初そう思ったけど、万が一歩君が会場に来なかった場合、映像として残しておけば後で見てもらえるし、もしかしたらテレビを観てもらえるかもしれないと気付き、最終的には部長の空がテレビ出演を快諾した。

 部室や愛大宅での練習を手抜きしていたわけではないけど、テレビ出演となればよりいっそう気を抜くことはできない。私達は動画サイトでそこそこ注目されているのでテレビで流れる映像を録画している人もいるかもしれない。この日に向け、やれることは全てやった。声量をあげるため苦手な腹筋も毎日やったし、愛大の親が所有するビルの地下ホールに借り手がいない日はそこを貸してもらって観客なしの模擬ライブもした。

 これがプレジャーディレクションの初ライブ。聴いてくれる人のため、今まで努力してきた私達のため、宝来君のため、空のため、絶対成功させたい。

 もうすぐライブが始まる。初めて使用するインカムはテレビ局から渡された物で、これを通じてライブ中はスタッフから細かな指示が入る。

『本番五分前。涼さん、スタンバイお願いします』

「了解しました」

 慣れない手つきでインカムの返事をしマイクの前に立った。

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