空を祈る紙ヒコーキ
ハッとしたように目を丸めたものの、男は本気で私のことを忘れていた。
「たしかにあそこはよく行くけど、俺達は初対面じゃないかな」
とぼけてる? でも、嘘をついている感じでもない。男は本当に私のことを忘れているみたいだった。
「ですよね。人違いでした。じゃあ」
私は早足で公園を出ようとした。忘れてもらえているならその方がいい。あんなこといつまでも覚えていられてはこっちも困る。
「ねえ、待って!」
男は私を呼び止めてきた。
「もしかしてだけど、高取(たかとり)涼さん?」
「どうして名前……」
高取涼。私の名前だ。
驚いて一歩のけぞる私に、男は得意げな笑みを見せた。
「今度から家族になるんでしょ、俺達」
「もしかして、夏原って人の子供?」
「そう、夏原って人の子供。夏原空です」
予定になかった想定外の顔合わせ。
お母さんの再婚相手の息子として、空は私に好意的な眼差しを向けてきた。
人からそんな優しい目で見られたのが初めてなので変に緊張した。やっぱりまだ信じらない。ただただ戸惑う。
それにネットカフェでの一件を忘れられているというのも納得できなくて、気持ちが落ち着かなかった。
紙ヒコーキの記憶(終)