空を祈る紙ヒコーキ
どちらかともなく私の部屋を出た。空の後ろをついていくように階段を降りると、鰻の匂いがした。ダイニングテーブルに二人分のひつまぶしが用意されていた。テイクアウトした物をすぐ食べれるように夏原さんが整えてくれたらしい。
「いい匂い〜! あ、もしかして父さん達飲んでるー?」
「ああ。せっかくだし少しな」
まるで私から逃げるように空はお母さん達の方に駆け寄る。なんていうのは考えすぎだった。空は人好きのする対応で私を手招きした。
「涼もこっち座って」
「う、うん」
さっきの沈黙がまだ体にまとわりついている気がしたけど、考えないようにした。
暁はお母さん達と一緒に店で食べてきたのに、私達がひつまぶしを食べ始めると物欲しげな目ですり寄ってきた。
「お姉ちゃんいいなぁ。見てたら僕も食べたくなってきた〜」
そう言えば何でも分けてもらえると思っている弟根性に嫌気がした。図々しい。
「アンタは食べてきたんだよね。あげないから」
「ケチなこと言わないの。少しくらいいいじゃない。暁、ジュースを飲みすぎて店ではあまり鰻食べられなかったのよ。分けてあげなさい」
「鰻を食べに行っといて勝手にジュースばっかり飲んだ暁が悪いんじゃん」
言い返すとお母さんの機嫌はますます悪くなる。分かっていても口が止まらなかった。
「そんなひどいことよく言えるわね!? 暁がかわいそうでしょ!」
こっちの正当性なんてお母さんには通じない。イライラして鰻の味もよく分からなくなってきた。そこまで鰻にこだわりなんてなかったのに、今は頑ななまでに暁にあげたくないと思った。
暁も目障りだけど、暁ばかり可愛がるお母さんはもっとウザい。