空を祈る紙ヒコーキ
夏原さんに父親の役割なんて期待してなかったけど、お母さんよりは話の分かる大人かもと思う。
とはいえ、お父さんと呼ぶのは抵抗がある。そこまでの情はないし、何より『空の父親』という印象の方が上回っていた。
「分かった。お父さんって呼ぶね」
無邪気に答えた暁の隣で、私は黙り込んだ。今年小学六年になる暁は、私が小六の頃より素直で利口だ。少なくともお母さんはそう思ってる。
「暁はいい子ね。それに比べて涼は……」
予想通りお母さんは不機嫌になった。私が暁みたいに振る舞わないのは今に始まったことじゃないのに、お母さんは私が暁と真逆のことをするとこめかみに血管を浮かべる。
「ちょっと涼! 聞いてるの!?」
「そういうのは焦らない方がいいよ。涼ちゃん、気にしないでね」
夏原さんは私の態度に気を悪くした様子もなく優しいままだった。お母さんをなだめつつ、夏原さんは穏やかにこう言った。
「さすがに父親だなんて思えないよなぁ。年の離れたお兄さんが増えたんだ〜くらいに気楽な感じに思ってくれたらいいよ」
「『お兄さん』はいくら何でも図々しいって」
空がすかさずツッコミを入れ、夏原さんは「だな」とヘラヘラ笑う。夏原親子のおかげで、私はそれ以上お母さんに責められずにすんだ。