空を祈る紙ヒコーキ
そう。私が感じたのはそういうことだったんだ。空の描くマンガの登場人物達には感情が足りない。だから読んでいる方はイマイチ理解ができないし、先を読みたい気持ちとは裏腹に作品の世界にどっぷり入り込むことができない。
俺を好きにならないで。空にそう言われたことを思い出した。あの時はただの自惚れ屋だと思い心底呆れたけど、あの言葉に隠された気持ちはもっと別の種類のものなのかもしれない。
「仕方ないよな。こういうのは流行りもあるし、しょせんその程度ってこと」
自分のことなのに他人事みたいに言い、空はギターを手にした。
「楽器弾く時は無心になれる。楽しいし、忘れられるんだ、何もかも」
明るい口調に反してどこか寂しそうな目をする空。悩みとかなさそうに見えるけど、空にも忘れたいほどの何かがあるの? 訊けず、空に合わせた。
「そういう発散の仕方いいねー。ありだよ。ギターなんて私には無縁だったし」
だからネットの書き込みに走ってしまった。何を悩んでいるかは知らないけどギターで発散していた空はまだ健全かもしれない。少なくとも私の悪行みたく人を傷つけたりはしない。
どこか投げやりにも見える空に引っかかるものを感じたけどどうにもできなかった。このまま何事もなかったようにバンド活動の話に持っていこう。空もこれ以上マンガの件には触れられたくないのかもしれない。ギターを弾く指先から視線を外さない空を見て何となくそう思った。
「そういえばさっきの子が持ってた猿のぬいぐるみもギター持ってたね。動物でも楽器とか弾くのかな」
わざと話題を楽器の方に向けた私を見て、空はポカンとした顔をした。