空を祈る紙ヒコーキ
できる事できない事
空の言葉に私は息を飲んだ。その音はごくんと大きく耳に響く。今まで感じたことのない種類の不安感で嫌な気分になった。
「覚えてないの? ついさっきのことじゃん……」
「……ごめん」
空は気まずそうに謝った。ジョークを理解されなかったことより、今はこの事実の方が深刻だ。
空の記憶は欠落しているーー。
誰だって何かを忘れることはある。でも、ついさっきの出来事を、しかもそれなりにインパクトのあることを、こうも簡単に忘れるはずがない。触れてはいけない何かが急速に足元に絡みついてくるような感覚がして鳥肌が立った。
私達はしばらくの間見つめ合った。しばらくして私から目をそらした。空は申し訳なさそうにうつむいた。
「また、出たんだ」
「……え?」
「中学の頃からたまにあるんだ、こういうの。相手と自分の記憶が違ってて話が食い違うこと。相手は大抵友達だから笑って流してもらえるけど」
「だって、それは……。っ……」
空が忘れてるから。そう言いかけやめた。言ったらいけないことな気がした。でも遅かった。空は私の言おうとしたことを察して悲しそうに笑った。
「人より物覚え悪いんだと思う」
「そんなことないって」
「……ありがと」