空を祈る紙ヒコーキ
放課後を楽しみにしていた愛大は部室棟の階段を上る足を早めた。体育が嫌いと言っていたのに今はとても楽しそうに動いている。よほど軽音楽部に行きたかったんだ。つられて私も楽しくなってきた。
でも、ひとつ気がかりがある。愛大には親の再婚のことを話してないし、空が義理の兄であることも秘密にしたままだ。愛大が生徒会長の話をした時も私は彼のことを知らないフリした。
今部室に行ったら、空は私のことを見て何と言うだろう? 妹として接してくるのか、空気を読んで家族であることを隠して振る舞うのか。
愛大はあまり細かいことにこだわらなさそうな子だ。でも、やっぱり親のことを知られるのはこわい。
小学生の時、親の離婚で同級生達の私を見る目は変わった。父が原因だったけどそれだけじゃない。人とは違う環境にいる私に対して好奇の視線が少なからずあった。その時感じた不快感や孤独、一線引かれ時の不安が今も忘れられない。愛大にまで冷たくされたら今度こそ人間不信になってしまいそうだ。
「ついた。ここだね。静かだなぁ」
愛大は軽音楽部の扉を軽快にノックした。
「入部希望なんですけど、生徒会長いますかー?」
「どうぞ」
中から空の声がした。入部希望者と聞いて浮かれているのが声音で分かった。家にいる時も明るいけど、ここで聞いた空の声はまた違う明るさがある。
「失礼しまーす!」
まるで友達の家に上がるノリで愛大は部室に足を踏み入れた。こういうところ、本当にすごいなと思う。空がいると分かっているから今回はそこまで緊張しないけど、相手が全く知らない上級生だったら私はとても愛大みたく気軽に訪ねていけなかった。