拗らせ女子に 王子様の口づけを
午後15時になって、秦野さんがやってきた。
「お世話になっております。休み前に新しく出た生地のサンプルとしていつものポーチと柄のサンプルを見て貰いたくて」
ふわりと笑う秦野さんに少しほっとして、ぎこちなくなるのが自分でも分かったけれどなんとか仕事用の顔を作る。
「いつもありがとございます。本当に毎回楽しみで。今回も可愛いですね」
最早私の巣となりつつある会議室に通して当たり障りのない話から始まる。
これからもお付き合いは続くし、秦野さんとは気まずくなりたくない。
最初はモヤモヤ勝手にしていたけど、あの日秦野さんはちゃんと私の気持ちを分かった上であの場に居て、気遣ってくれていたんだもの。
ここはきちんと謝りたい。
後回しにしてもぎこちないだけだし、と秦野さんに先ずはと話しかけた。
「あ、あの。秦野さん、この前はごめんなさい。仕事中に申し訳ないとは思ったんですけど、仕事の話の前に一言言いたくて。色々気遣ってもらったのに最後放置してしまって秦野さんに一番迷惑かけちゃった。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げて秦野さんに向かい合う。
ゆっくりた頭をあげると、秦野さんが眉を寄せて困った顔をしていた。
「謝らせて貰うのは私の方です。最初から邪魔していたのは私だし、本当にごめんなさい」
いやいや、秦野さんは完全に巻き込まれただけなのに。
「そんなっ、秦野さんは何にも悪くないです」
「私も本当はもっと早く謝りたかったんですけど、そこまで首を突っ込んで良いのかなって考えてしまって。
……でも、気になっちゃって結局ここに来てしまったんですけどね」
えへへ。
とでも言いそうな表情で、苦笑する秦野さんと同じように苦笑を私も浮かべ合う。