拗らせ女子に 王子様の口づけを
定番のおつまみと、
「えっと、私、スプモーニを。秦野さんは?」
「シャンディ・ガフお願いします」
直ぐに来たドリンクでまずは乾杯。
軽くグラスを合わせて喉を潤す。
ふふ、美味しい。
着いて早々失礼かと思ったがずっと気になっていたことを聞いてみた。
「秦野さん……あの。今奏ちゃんと付き合っていたりしますか?」
だって、もし付き合ってたりしたら本当に申し訳なさすぎる。
仮にも彼女の前で何て失礼を。
でも秦野さんは目を大きく見開いた後、すぐに嫌そうに目を細めた。
あれ?
「ごめんなさい。誤解させてたら悪かったけど付き合ってないわ。……ってゆうか、敬語止めない?今は仕事じゃないしね」
ニヤリと笑みを浮かべた秦野さんに頷いて
「うん」と答えた。
「で、さっきの話なんだけど……あのね?今は付き合ってないんだけど……」
ちょっと気まずそうに話す秦野さんに言葉を重ねるように、それは知ってる、と答えた。
「高校時代の元カノなんですよね?それは奏ちゃんから聞いたから、だから大丈夫です」
だから、気にしないで、と言うように頷きながら秦野さんに笑いかける。
「そう。あの頃はね、まぁ若かったから奏輔みたいなイケメンに恋に恋してただけなんだなって今なら分かるんだけど、この年になるとね、顔だけじゃ恋は出来ないわよね」
アハハッと軽やかに秦野さんが笑った。
「奏輔もね、顔だけは相変わらず良いのよね」と溢しながら。
その意見には賛成だ。
年を重ねてもあの爽やかさは健在なんて詐欺だ。
「前に奏ちゃんの話から秦野さんの事を聞いて……家の、身の回りのお世話をしてもらってるって……あの、だから付き合ってるのかなっと思って」
スプモーニのグラスをカラカラ触りながらそう思った経緯を話す。
「えっ?あ、やだ。ごめんね?私、下に二人弟がいて根っからの姉気質なのね。
それで、先週紹介したお客さんって言うのが一番下の弟でね、結婚が決まってお家の相談をやっぱり知ってる分聞きやすくて、聞いてたら雑談の中に家がめちゃくちゃとか言うから思わず手を貸してあげただけなのよ。
でも、本当に何にもないから。
その一回だけだから!
誤解させような事してごめんね?」
捲し立てるように弁解する秦野さんの必死さが可愛くて、思わず私も笑ってしまった。
「フフ。分かりました」
「け・い・ご!」
「あっ、なんか癖で。徐々にってことでお願いします」
「もうっ。ふふ。まぁいいか」
「えへへ」
やっぱり秦野さんいい人だな。