拗らせ女子に 王子様の口づけを

うわっ、ち、近い。
なんだこれ、駄目だって、なんか緊張してきた。
奏ちゃん以外の男の子とこんなに近くにいたことなかったから、なんか照れる。


思わず顔を背けるように横を向いて、
「なんでもない、」と動揺を悟られないようになるだけ素っ気なく答えた。

三矢は特に気にもせず、そうか、と言って話を続ける。


「あの人……秦野さんだっけ?飲んできたのか?」

「えっ?そ、そう。あのね、駅からちょっと歩くんだけど一見倉庫にしか見えないお店があってね、居酒屋さんだったの。美味しかったよ、雰囲気も良くて楽しかった」

「へぇーそんな店があるんだな。知らねぇわ。今度連れてってよ、行ってみたい」

運よくその話に乗ってくれて、変に緊張していた体がゆっくりとほどけていく。
そうだよ、三矢相手になんで緊張してるんだろ。


「うん、いいよ。いいけど、行けたらね。何となくしか覚えてない」

「は?さっき行ったばっかじゃねぇの?」

三矢が大袈裟に頭を振って、信じられないとでも言うような声音をあげる。

「だから?」

だから何よ、と口を尖らせる。
分かんないもんは、分かんないんだから仕方ないじゃない。

行きたかったら自分で調べなさいよ。
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