拗らせ女子に 王子様の口づけを

軽く息をのみ、ニコリと沙織が笑った。

「…………奏兄。私、今日はもう少し濱本主任とお話ししたいしまだ残るよ。
帰りのことは心配しないで?
それに、そろそろちゃんと兄離れしないとね!」

俺に向けられる笑おうとして笑った完璧な笑顔で、沙織から兄離れを宣告される。
違う。
俺が見たいのはそんな顔じゃない。

一瞬、目の前がくらりと歪んだ。

あぁ、あんなに可愛いと思っていた沙織からの『奏兄』の呼び方。
今は何故かこんなにも胸に深く突き刺さった。


「野々宮主任。ちゃんと送るから安心してください。じゃあ、失礼します」

「奏兄、ありがとう。おやすみなさい」

沙織は小さく手を降って三矢と共に歩き出していった。

そっか、兄であろうといつかは手離さなきゃいけないんだな。

妹離れなんて、どうやってやるんだよ。

あぁ、すげぇ。
『胸に大きな穴が開く』そんな言い回しはこういう時に使うのか。なんて、他人事のように自分を揶揄してしまう。

なんだこれ。
なんなんだよ、これは。

━━━━━━━胸が痛い。






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