拗らせ女子に 王子様の口づけを
それでも断ることも出来ずにグラスへ口をつけようとしたら、横から手が延びてきた。
「そろそろ止めとけ。これ以上はこの前みたいになるぞ」
一瞬の既視感。
すぐに我にかえった横で三矢が私の手からグラスを取り上げ、飲み干した。
「…………っ、」
反応が遅れて三矢が訝しげに顔を覗き込んできた。
「…………どうした?」
「な、なんでもないっ!」
いやいやいやいや。
なに考えてるのよ、奏ちゃんなわけないじゃない。
飲みすぎただけ。
それだけだから。
なんとなく、席をたって場所を移動することが出来ず、濱本主任ともゆっくり話すことが出来なかった。
三矢には申し訳ないけれど、今この席をたつときっと誰かがここに座る。
人気者の三矢の隣だもの、争奪戦になるだろう。
三矢が移動してしまったらそれは仕方がないけれど、隣に入れる間はここを確保したい。
だって、こんな動揺したまま他のだれかと話すことなんて出来ないもの。
酔った同僚の絡みも三矢が対応してくれるし、今まともに相手が出来る自信がない。
だから私はトイレにも立てなかった。
駄目だ。
これ以上飲んだらトイレに行きたくなっちゃう。
奏ちゃんの近くを横切る事すら出来ない私はどこまでチキン野郎なんだ。
「三矢ーごめんねー」
突然謝りだした私に三矢もぎょっとした目を向ける。
「……お前、泣き上戸だったか?」
いや、違うから。
「まぁ、いいや。もう飲むな分かったな」
「あいーーーー」
今は三矢の言うことを聞くしかなくて。
そう言って頭をポンと軽く叩かれたりなんかして、そのしぐさ1つでも奏ちゃんを思い出す。
私はなんて最低なんだろう。