拗らせ女子に 王子様の口づけを


奏輔はたまに言う沙織のお願いに弱い。
普段から我が儘を言うことの少ない沙織が言ってくるのだ。よほどの事がなければ付き合ってあげる。
我が儘を言わないのも、ひっきりなしに変わる彼女や彼女候補のいないその合間にしか言えない、みのりとの約束があるお陰で、控えめにならざるしかなかったからだ。


でも、今年の誕生日は彼女もいない。
近くにも帰って来た。
タイミングも良いはずだ。
誘っても、みのりとの約束は破らないはずだ。

「そう。映画、見たい」

「クククッ、なんでカタコト?」

頭をグシャグシャと掻き回される。

「ちょっ、ちょっと!髪の毛止めてよ」

「悪い、悪い。ククッ。朝迎えにいこうか?」

奏輔の手を握り、頭から外す。
手櫛で整えながら、奏輔を見る。

「駅まで行くよ。家の回りは道が狭いから、そこまで出ていく。駅に迎えに来て?」

「はいはい。あーぁ。沙織は俺には家の場所教えてくれないんだな。さみしーなー」


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