拗らせ女子に 王子様の口づけを
「奏ちゃん、帰れないかもしれないけどご飯食べなきゃダメだよ?お家の事してる?ご飯持っていってあげようか?」
小さいときから共働きで、母親も営業職だった為か時間通りに帰ってこない親に変わって家の事は沙織がしていた。
小さいときは不満に思ったりもしたが、今となっては感謝するスキルだ。
奏ちゃんに彼女がいる間は、そう言ったことに手出しするわけにはいかないが、今なら……と思って調子にのった自分を消し去ってやりたい。
「いや、家の事は今梨花に頼んでるから平気だわ。ありがとな、サオのご飯うまいから食べたかったけどな。何時になるか分からんから心配するな」
そう言って奏ちゃんは私の頭を撫で、「じゃあな」と行って仕事に戻っていった。
私の一気に青ざめた顔に気がつくこともなく。
胸が早鐘のようにガンガン鳴り響く。
いつだってそうだ。
私の落ち込む気持ちを考えることもなく、彼女の事を口にする。
そりゃそうだ。
奏ちゃんにとって私は『家族』で『妹』だから何気無い日常の会話に彼女の話だってさらりと出るんだ。
あからさまに動揺して、弾いたようにその場を駆け出した。
帰らなきゃ。
ここにいちゃ駄目だ。
一人になりたい。
奏ちゃんの言った『梨花』の名前がリフレインする。
秦野さんの名前は……『梨花』だ。