Five seconds ー恋が始まる5秒前ー
「せんせ」
私は彼を呼び止める。
小走りに駆け寄ると、彼は現実に引き戻された事に不満げな顔をして私を見た。
「あぁ」
了承の言葉はあまりに味気ないものだった。
“よく来たね”
“何か食べる?”
彼は決して親切に聞いてきたことがない。
ただ、私はここにあるだけの存在。
慣れたことだ。
「私も水羊羹食べたい」
「どうぞ」
彼は台所を指差した。
この家には似合わない、真新しい冷蔵庫の中にお目当のものはあるらしい。