2年おきの恋。-偶然と必然と運命と宿命-
**-- other side One --**
でも聞こえなかったみたいだ。いや、聞こうとしていなかったのかもしれない。それでも俺はもう一度声をかけた。
「待てってば!」
白いコートに向かって一直線に走った。後ろ姿だけだったけど、俺には小峯栞なんだと分かっていたんだ。
だから肩をつかむ瞬間だって躊躇(チュウチョ)も何もなかった。
「あんた、歩くの速いのな」
――くそっ。だいぶ走らされてしまった。
立ち止まったとたん、息が上がっていることに気づいた。ハァハァと白い息が出ては消えていく。
「誰?」
――誰?
小峯栞は驚いた様子もなく俺に聞いた。
「この金、どう考えても多いと思うんだけど」
俺の右手にしっかり持っている1万円札を見れば、俺が誰だか察しもつくってもんだろう。
俺はあえて名前を言わなかった。それは……、なんというか“男の意地”?みたいたものだった。
それからは、何を言ったのか、どんな会話をしたのか、俺は覚えていない。