2年おきの恋。-偶然と必然と運命と宿命-
**-- Ten --**
「家庭内別居なんて言葉では片付けられない。別居じゃないんだ。僕は妻の目から消えて心からも消えて……。透明人間にでもなった気分だったよ」
そう言って、あの人はうつむき加減で悲しく笑った。
――そんなこと言ってなかったじゃない……。
噴火寸前まで高ぶったワタシのマグマが退いていく。
あの人の家庭のことは聞いたことがなかった。
それに“透明人間”……。
ワタシは小さい頃、自分のことをよくそう思っていた。
でも“同じ種類の孤独”は共感できない。根本的なところが違っている。
「……初めて聞いた」
ワタシはあの人の告白に驚いて、そう言ってしまった。
「見栄を張っていたからね、特に君には。君は不倫相手に父親を求めるから。少しでもそれらしくと思って」
あの人はそう言った。
「だからこの通帳、僕から受け取りたくないのなら、父親からもらったものだと思えばいい」
あの人は穏やかな笑顔でワタシの手を取って、力が入らない指先に通帳を握らせた。