知らない彼が襲いにきます
――ここのところ、母の急死やら使用人の解雇やら葬儀の準備やらでなかなか街に出る機会がなかったが、父の寝静まった今なら外に出られるだろう。


もちろん今日街へ行ったところですぐに彼に会えるとは思っていなかったが、何となく彼を探しているだけで少しは救われ、気が紛れる気がしたからだ。



「もう、お父様は寝たはず」



忍び足で部屋を出ていく。


使用人が全員解雇されたこの屋敷に、もう見張り役はいない。


私は簡単に抜け出すことができた。


満天の星空のもと、頬を冷たい夜風がかすめていく。


寒い。


私は歩調を早めると、急ぎ足で街へ向かった。
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