知らない彼が襲いにきます
それを感じ取ったのだろう、彼は私の口から手を離し、一歩下がると胸に手を当ててうやうやしくお辞儀をした。


まるで、エヴァンがかつてそうしていたように。


名前も知らないこの男性にエヴァンの姿を重ね、立ち尽くす私に彼は微笑み、ひざまずいて手の甲にキスをする。


彼は言葉を話さないが、「貴女に忠誠を誓います」と言っているかのようだ。


見た目を除けば何から何までエヴァンにそっくりな彼に私は困惑し、呆然とする。



「なぜ、あなたは話さないの?」



ようやく口をついて出てきたのは、この雰囲気には似つかわしくない幼稚な質問だった。


彼は返答に困ったように肩をすくめ、それから――私を抱きしめた。


突然の行動に、私は固まる。


しかし、嫌だと思わなかったのはなぜだろうか。


私には、エヴァンという心に決めた人がいるのに。


彼は私を抱きしめたまま、ゆっくりとベッドに押し倒した。


手首をベッドに縫い止められて、私の心臓の鼓動が跳ね上がる。
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