知らない彼が襲いにきます
「お父様、お断りして。私、ずっとお父様のそばにいたいわ」



機嫌を取るためにそう嘘をついた。


別に父のもとにいたいとは思っていない。


しかし、どれだけ父に屋敷の仕事を押し付けられようとも、この屋敷は母やエヴァンと過ごした思い出の場所だ。


簡単に離れたくなどなかった。


断ってほしいと繰り返す私に嫌気がさしたのか、父はバン!と机を両手で叩いた。



「いいか、お前が子爵の妻にならなければ、この家は、この領地はおしまいなんだぞ!先祖代々築き上げてきた資産を失うことの意味をお前はわかっているのか!」



そもそも領地を担保に借金をしたのは父の方なのに、彼は自分のことは棚に上げて私を叱る。
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