知らない彼が襲いにきます
「リリアーヌ様、ご結婚おめでとうございます」



「幸せな毎日が訪れますよう」



嫁ぎに行く領主の娘の最後の姿を一目見ようと、屋敷の周りには領民たちがすし詰め状態で集まった。


しかし、祝福の言葉とは裏腹に、みんな浮かない顔をしている。


中には、ハンカチで目を押さえている貴婦人までいる。


当たり前だ。


こんな結婚、私が望んだものではないのだから。



私は荷馬車の中から顔を出し、精一杯の笑顔で領民たちに手を振った。


しかし、唇の端が引きつってしまっているのが自分でもわかる。


緑の豊かなこの土地を目にするのも、今日が最後だ。


もう戻ってくることはないだろう。


せめて信頼できる侍女が一緒にマクレガー邸についてきてくれればいいのだが、使用人のいなくなった今となってはそれすらも叶わない。


私は荷馬車の御者と二人きりで、これから十時間の長旅をしなければならないのだ。
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