知らない彼が襲いにきます
俯き、肩を震わせる私に、御者が振り向いた。



「リリアーヌ様。私などが貴女の胸中を勝手にお察しするのは無礼かもしれませんが……ひどく、お辛いことでしょう」



その声は同情をはらんでいる。



「大丈夫よ」



心優しい領民に心配をかけたくなくて、私は強がってみせたが、絞り出したその声は震えていた。


マクレガー子爵がどんな人なのか、その顔も、声も、性格も分からないのだ。


そんな人のところに、報酬と引き換えに送り出される私は、奴隷とまるで変わらない。



そう、私は奴隷――。



しかし、これから私の身に起きる現実が、心の中で呟いたその言葉通りになるとはまだ思ってもいなかった。
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