知らない彼が襲いにきます
十時間の旅の間、御者はときおり私を気遣い、声をかけ、慰めてくれた。


私はその度に首を振り、大丈夫、大丈夫と繰り返す。


しかし、大丈夫と口にすればするほど、自分がどんどん惨めになっていくのがわかって、途中からは口を閉ざしてしまった。


そんな私の思いを察してか、御者も言葉少なになる。


マクレガー邸が見えてきた頃には、お互いに一言も発していなかった。


屋敷を出るときは曇り空だった天候が一転し、今は雷雨となっている。


馬車の屋根を打つ激しい雨が、まるで槍のように私の心を突き抜けるのを感じていた。


せめて、マクレガー子爵が父より常識のある人だったらいいのだけれど。


私はそう祈るように、背を丸めて手を組んだ。
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