知らない彼が襲いにきます
深緑色の瞳。


くるんと毛先がカールした栗色の髪。


燕尾服がとてもよく似合う彼は、私の記憶の中の想い人そのものだった。



私は痛みも、自分が裸であることも忘れて息を飲んだ。


まさか、彼と、こんな形で再会を果たすとは。



「エヴァン。こいつの後片付けを頼む」



「かしこまりました」



彼が私をちらりと見る。


私は必死になって目で訴えかけた。


――私を知っているでしょう、あなたのお嬢様だったリリアーヌよ。


しかし彼が私を見たのはほんの一瞬だけで、すぐに子爵に向き直ると胸に手を当ててひざまずいた。


私に忠誠を誓っていた時と同じ仕草で、いま彼は子爵のような男に忠誠を示している。


絶望で目の前が真っ暗になった。


頭ががんがんとひどく痛むのは、折檻のせいではないだろう。
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