ephemera
 いつも私は彼の斜め後ろに座る。
 彼が振り向くことはない。

「ずっと波の音だけ聞いてると、自分が海の中にいるみたいだ」

「飛び込んでみる?」

 彼は立てた膝に頭を乗せて、目を閉じている。
 陽炎と、波の音だけが彼を包む。

 青い空には真っ白な雲が、ところどころに浮かんでいる。
 もう少し時間が経てば、綺麗な夕日が見えるだろう。

「インスピレーションが浮かぶのは一瞬だ。一瞬のものを掴むのは難しい」

 目を閉じたまま、彼が言う。
 突堤にぶつかった大きな波が、砕け散って大きな水飛沫を上げた。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop