苦しくて、愛おしくて
「………やられた」
あれは中学校一年の秋のことだった。
前日がひどい雨だったせいで、体育館周囲の通り道は酷くぬかるんでいた。
その水たまりに不自然に落ちている体操服。
泥で汚れながらも【橘 奈央】と入れられた刺繍だけはハッキリ確認できた。
ほんの数分トイレへ行っていた間に、体操服は着られなくなっていた。
「……」
べチャッと水分を吸って重くなったそれを力なく拾う。
馬鹿みたい、と
なんだか全てがどうでも良くなった。
やめた、部活なんかやってらんない。
正確には部活にでられなくなったのだけれど、出られないんじゃない。私が出ないって今決めたんだ。