苦しくて、愛おしくて
「あら、凛くん」
「こんばんは。夜分にすんません。あの、奈央っていますか?」
「あの子ねまだバイトなの。21時上がりだからまだ30分以上あるし、家で待ってる?」
「や…コンビニで待ってる。ありがとうございます」
軽い会釈をし、コンビニへ向かおうとすると
「…あ、凛くん!」
おばさんの声が俺を呼び止める。
「凛くん、お母さん、おめでとう」
「っ」
「言ってあげてね、凛くんも。凛くんのときもきっとみんなに沢山言ってもらってたと思うわよ」
「…、」
ふふ、とあまりにも柔らかい笑みを浮かべるから
開きかけた口をキュッと真一文字に閉ざした。
もう一度会釈をすると、足早に立ち去る。
自転車だけを家に置きにいったとき、玄関の灯りがまだ消えていなかったことが、俺を余計にイライラさせた。