苦しくて、愛おしくて
帰り道。
互いの家について凛が「じゃ、」と背を向けたところで私は彼のアウターの裾を握る。
「ね、凛。これ貸してあげる」
首に巻いていたマフラーを外すと、それを凛の首の後ろにかける。
「女物じゃん」
「でも男の人がしても変じゃないよ?
これね、私が高校受験の日に巻いてたやつだから、かなり縁起いいと思う」
緑に赤に黄色のチェック柄。
やっぱり凛が巻いても
変どころか、凄く似合っていた。
「…じゃー代わりに俺の貸してやる」
凛は暑くて巻かずに手に持っていたマフラーを、グルグルと私の首に巻きつける。
「男物じゃん」
「でも似合っちゃうんだろ?」
「まあそこは私だから」
「はは、うぜー」
グレーのリブニット生地のマフラーからは凛の匂いがして、不覚にも少し癒されてしまった。