愛は尊い
いつの間にかお母さんもいて
薄っすら涙を浮かべている
何とも言えない空気に
私は玄関のドアを開けた
真っ青な青空
雲ひとつない晴天だ
いい日になればいいなと思いながら
階段を降りていたら
うちの前に1台、そしてもう1台と
黒塗りのセダンが停まった
こんな時間に違和感だらけ
助手席から降りてきた人は
後部座席のドアを開けている
偉い人なんだろう
私は構わず門をくぐり駅へと
向かおうとした時
「本田音」
その言葉に足が停まった
それと同時に、さっきお父さんに言われたことを思い出す
本田音と、名乗らない
一瞬、振り向きそうになったが
何とか持ちこたえ
何事も無かったかのように
私は駅へと足を向けた
多分、あれは我が家の客人
あんなスーツをビシッと着こなすような相手をお父さんは知らない