愛は尊い
「…何言ってるのよ」
引きてる笑顔が痛い
それでも俺は話し続ける
「俺が知ってる楓はいつも元気でいつも笑顔で…嘘をつけないやつだった。誰かを好きになったら一直線…全力で愛して、全力で怒る。こっちも全力じゃなきゃダメなやつだった」
…だった、だ
今は相手の顔を伺いながら
笑顔を振りまいている
俺が知る楓が最も嫌う人間だ
「…そんな楓が好きだった」
もう…過去の話
俺が好きだった楓は…もういない
カチン、と閉まったジッポを見る
手の中にあるジッポは
傷みも磨耗も激しい
安物だから、仕方ない
けど、気に入ってる
だから、捨てることはできなかった
いい加減…前に進まないとな、
そう思いながらもジッポを見た
もう、進まないと…
俺の手の中から
スーッ、とジッポが滑り落ちる
そのまま落下していった