愛は尊い


よしっ、


カチン、と閉められたキャリーケース
高校の修学旅行のために買ったキャリーケースを、こんな形で使うなんて…


黒崎さんからは
最低限な物だけで、
あとは嘉賀様の方で用意してくれる

だからお気に入りのドレッサーも
誕生日に買ってくれたドライヤーも
持っていけない…
唯一、持ったのは
貝殻で装飾された家族写真が入った写真立てとたくさんの画像が入ったスマホ



キャリーケースを持ち
階段を降りると、リビングのソファで
頭を抱え込むように座っているお父さん



「音っ」


私に気がつき
キッチンからパタパタと近づいてきた


『おはよう、お母さん、お父さん』


いつも通り、挨拶をするが
二人とも返事を返してくれない
仕方がないかもしれないが…
別に一生会えないわけじゃない
だから明るく送り出して欲しい


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